シノヤマ『写楽』vsアラーキー『写真時代』(後編)【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」20冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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シノヤマ『写楽』vsアラーキー『写真時代』(後編)【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」20冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」21冊目

 

 エロ本において「局部をいかにギリギリまで見せるか」は重要なテーマである。その点、末井氏は“工夫の人”だった。剃毛したり、透けパン、濡れパンをはかせたり、写真を小さくしてみたり。そのへんの創意工夫はバカバカしくも面白い。性器のドアップ写真に別の雑多な写真をコラージュした“オマンコラージュ”はその最たるものだ。そこに実用性があるかどうかは微妙なところではあるが。

 

上・『写真時代』(白夜書房)1984年8月号p4-5、下・同1985年10月号p126-127。別の号には下の写真のくり抜いた部分を使ったコラージュもあり

 

 エロを主眼としながらも、実験的写真や国内外のルポルタージュ、サブカル的記事も載っている。「写真とはこういうもの」という既成概念に囚われない。そういう意味では、やはり『写楽』と『写真時代』には相通じるものがある。その点について、前出『雑誌狂時代!』のインタビューで末井氏に問うてみれば、「僕はだいたい『写楽』を見てたんです。それをエロ本に置き換えたようなところがありますね。だから判型も同じです」との答えが返ってきた。前回、『写楽』と『写真時代』のライバル関係について「制作サイドは特に意識していなかったかもしれない」と書いたが、少なくとも末井氏は意識していたのだ。

 「それまでカメラ雑誌はあったけど、〈写真の雑誌〉というのはなかったし、カメラ雑誌はものすごくつまらなかった。それがまず(『写真時代』を)作るきっかけだったんですよ。だから、『写楽』がお手本といえばお手本ですね。写真の概念を拡げるという意味では、『写楽』は頑張ってましたよね。僕も好きでしたよ、あの雑誌は。でも、小学館でやってるから、やっぱり限界がある。やっぱりカッコイイ雑誌だからね、エロにしても、グロにしても、そんなにできないと思うし。ナンセンスとか、ホントにくだらないこともできないでしょ」と末井氏は言う。

 『写楽』の側も、コラムページでビニ本やAVを取り上げたり、赤外線カメラで公園のアベックの痴態を撮る吉行耕平やナンパカメラマン“マシンガンの教”こと佐々木教を『写真時代』より先に紹介したりはしている。が、やはり下品になり切れないというか、どこか格調の高さが漂う。『写楽』にあって『写真時代』になかったのは戦争関連の写真だが、雑誌の性格や予算の規模を考えればやむをえまい。どっちがいい悪いではなく、似ているようで違う、違うようで似ている2誌だったことは間違いない。

次のページ発禁回収という結末が、更なる「伝説の雑誌」へ

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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